

EUREKA
監督:青山真治
2000年 日本
台詞の言葉数こそ少ないが、だからこそ発せられる言葉のひとつひとつが重く、鮮明に心に響く。セピアな色調(クロマチックB&W)でプリントされた目にやさしい見事な映像は、主人公達を、映画を繊細なまでに深く深くさらけ出す。変わらない日常を生き続ける僕たちも、傷を負った主人公達の共同生活や旅姿を追いながら、ただ逃げているだけの日々を送っているのか、漠然とでも何かを始めようとしながら生きているのか、自らの存在意義、探し求めているものは何なのか、自らの哲学を問い考える。物語終盤、ジム・オルークの「ユリイカ」が流れる特別で秀逸なシーンを思い出しながら、また考える。変わらない日常でありつづけようが、行きようと意志を持った瞬間にすべてが色づきはじめるマジック。3時間37分の長尺を気にしてはいけない。静かな感動が波打つ、2000年代を代表する傑作。九州人として、九州が素敵に懐かしく思えた映画でもあった。


リアル・ブロンド
THE REAL BLONDE
監督:トム・ディチロ
1997年 アメリカ
ブラボー!! マジでブラボーですよ!! この映画が公開されたときはウディ・アレンの後継者とかいわれて気にしてはいたんだけど、今日になって観て、いやはや素晴らしかったです。ウディ・アレン狂な僕からしても、まんまウディ・アレンな映画でしたが、故意的にマネようという意図であったとしても(ニューヨークが舞台の恋愛群像劇で精神科医もちゃっかり出てくる)、この巧さと完成度では認めざるを得ないでしょう。トム・ディチロ、スゲーよ!と思っていたら、調べたところ『ジョニー・スウェード』(ブラピ主演の空からブーツが降ってくるニック・ケイヴもヘンな人で出てくる奇妙な映画)をデビュー作として撮ってた人でした。な〜るほどねぇ〜。


黒猫白猫
CHAT NOIR, CHAT BLANC
監督:エミール・クストリッツア
1999年 フランス・ドイツ・ユーゴスラビア
なにかとせわしない東欧の田舎町。老若男女、ヘンな人がたくさんでとにかく楽しい映画だった。その生のエネルギーと躍動感はなにゆえに?と思ってしまうけど、そんな疑問が頭に浮かんだ時点で僕らは負けているのだろう。生活とはそもそもこの映画のようにエネルギーに満ち溢れているものなのだ。正にも負にも振れ幅が少ない生活はつまらない。思いっきり笑ったあとで、そんなことをひとり思う。それにしてもじいちゃんサイコーだったな。


ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
BUENA VISTA SOCIAL CLUB
監督:ヴィム・ヴェンダース
1999年 ドイツ・アメリカ・フランス・キューバ
今月のSWITCH北野武号に山本耀司のインタヴューが掲載されていて、北野武と「今時の若い奴より、俺達の方が未来があるよな」といった話をしたと書いてあるのが、ものすごくグサッときた。この映画に登場する伝説的なキューバの老演奏家たちが、とにかくカッコよくて感動的なのは、いまもなお生き生きと人生の歩みを続けているからだ。キューバという国家を背景に生きる姿・表情・言葉・エネルギー。素晴らしく気持ちよいキューバ音楽とともに、強い憧れを抱いてしまう。2000年の単館作品興収ナンバー1を記録。


ストレイト・ストーリー
THE STRAIGHT STORY
監督:デビッド・リンチ
1999年 アメリカ
1998年の夏に東京から実家のある宮崎まで青春18きっぷを使って3日かけて帰ったことがあるけど、それさえも異様に速いと思えるほど、この映画の旅はゆっくりとしたスピードで進んでいく。そもそも旅にスピードを求めるべきではないのだ。人生を旅と置き換えるなら、そのスピードはいかがなものか。僕は僕なりのスピードで目的地にむかって、この映画の主人公のように自力でたどりつきたい。リンチの前作『ロスト・ハイウェイ』から一転、『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントンが兄役で登場し、ゆっくり静かに言葉を交わし空を見上げるラストも秀逸な素敵に思える作品だ。


アメリカン・ビューティー
AMERICAN BEAUTY
監督:サム・メンデス
1999年 アメリカ
いつの時代であれ、人は他者とのコミュニケーションなしには生きている気がしないし、幸せになることはできない。その根本的な認識さえ麻痺してしまうほど、現代社会には時が過ぎていくたびに新たなモラルやルールや価値観が創り出され、他者とのコミュニケーションを成立させるにはあまりに複雑化してしまっている。時が流れるスピードはどうすることもできないが、それでも自分の人生をなんとかしていきたいというポジティブな気持ちに、この映画は思わせてくれる。


デッド オア アライブ 2 逃亡者
監督:三池崇史
2000年 日本
力と翔。前作が敵対する関係だった分、ふたりの本当の共演シーンは世紀の決闘ラストシーンのみで終わってしまったが、今回は三池版「コインロッカー・ベイビーズ」ともいえる完全なるバディ・ムービーとしてVシネ界の最強タッグが存分に楽しめる。予定調和のレベルを軽く超えた豪快で強引なもっていきかたは、今作でも随所に散りばめられ、(SHOW&笑&衝)=ショウ撃度も凄まじい。力のハジけっぷりといい、翔のヌケ具合といい、ふたりとものびのびしてて、ヤクザ映画とのギャップがとても気持ちいい。ラースの『キングダム』とともに続編が待ち遠しく思えるほど、トリコになる作品だ。


ダンサー・イン・ザ・ダーク
DANCER IN THE DARK
監督:ラース・フォン・トリアー
2000年 デンマーク
最初のミュージカル・シーンが始まったときのゾクゾクっと瞬時に覚醒するほどのカタルシス。両目から涙をたれ流しながら傍観することしかできないラスト〜最後から2番目の歌。ストーリー自体は、いたってシンプルなものだが、喜怒哀楽という四字熟語以上の感情の大きな振れ幅は、ビョーク=セルマの歌と音楽による効果があまりに大きい。一世一代の役をビョークはフィルムに刻んでいたし、ビョークとともに迫真の演技で対抗したカトリーヌ・ドヌーブも本当に素晴らしかった。セルマの母親像はあまりに極端なものではあったが、だからこそ真実の感動があったのだろう。ラースは映像作家として、また究極のものを作り上げてしまった。目を赤くして放心状態で劇場をあとにすることは避けられない。


死亡遊戯
GAME OF DEATH
監督:ロバート・クローズ
1979年 アメリカ
世界的な知名度から言っても東洋一のスーパースターとしては無敵であり伝説でもあるブルース・リー。映画がどうこうという以前にブルース・リーという圧倒的な存在があれば、もはやそのすべてが肯定される。ほんとでもすごいです。全世界のド肝を抜いたカンフー・アクションは当然として、その他の動作、顔、表情、髪型、ファッション、ヌンチャク・・・、彼のそのキャラクターを構成するすべてが完璧なのだ。今作での有名すぎる黄色い全身タイツは、元々悪者の部下のコスチュームなのだが、それを着て敵のアジトに乗り込んで最後の決闘をするブルース・リーを見てると、あまりに見事でタイツ姿が神々しい。これを観た誰もが、一度試着ぐらいならしてみたいと思っているはず。残念ながらブルース・リーはこの映画の完成をみることなく他界したため、一部吹き替えによって完成したいわく付きの作品。さらにこの運命は、まさに今作の劇中のシーンのように(映画アクション・スター役のブルース・リーは撮影シーンで敵によって空砲から実弾にすりかえられたピストルで撃たれてしまうという場面がある)、息子ブランドンにも引き継がれてしまう。


HELPLESS
監督:青山真治
1996年 日本
うーん、なんなんだろうなぁ、というのが正直な僕の印象。退廃、退屈、やるせなさ。病んだ世の中への突発的な怒りと暴力。主演の浅野忠信がNIRVANA『NEVERMIND』のTシャツを着ている、そんな映画。
