BEFORE AND AFTER SCIENCE / BRIAN ENO
最近のメキシコ映画に『天国の口、終わりの楽園』という作品がある。羨ましいほど青い男子学生ふたりとワケありの人妻との青春ロードムービーで、なかなかの秀作である。クリス・コロンバスの後を継ぎ、ハリー・ポッターシリーズの次回作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を監督することが決定したらしい監督のアルフォンソ・キュアロンは、この映画を撮るにあたってエンドクレジットで流れるフランク・ザッパの曲にインスピレーションを受けたことが契機となったみたいだが、僕がこの映画の音楽で最も印象的だったのが、劇中、ブライアン・イーノの曲「BY THIS RIVER」が車のラジオから流れて、曲の途中でラジオが故障するシーンだったりする。単音のメロディが切なく訴えかける美しい名曲「BY THIS RIVER」を収録したアルバム『BEFORE AND AFTER SCIENCE』は、ベルリンでデビッド・ボウイの傑作群をプロデュースしていた頃とほぼ同じ時代の1977年発表。その後のアンビエントの世界へと突入していく直前のもので、曲調にその辺りの影響が既に表れてはいるものの、まだまだイーノもほとんどの曲で歌っており、非常にバランスのいい優れたアルバムだと思う。
PIONEERS WHO GOT SCALPED : THE ANTHOLOGY / DEVO
サマーソニックでの来日公演が本当に楽しみ!ということで、DEVOが2000年に発表した2枚組アンソロジーをご紹介。ブライアン・イーノのプロデュースだった1978年のデビューアルバム『頽廃的美学論』から1990年の『ディーヴォのくいしん坊・万歳』(DEVOに関しては何かとクセのある邦題がついたりしてるのだが、さすがにこれは意訳のし過ぎじゃないのか?!)までのオリジナルアルバムに収められた代表曲の数々に加え、アルバム未収録のシングルヴァージョンや活動の合間にちょこちょこ映画サントラに提供してきた曲(この中にはNINE INCH NAILS「HEAD LIKE A HOLE」のカバーなんてのもあり。ちなみにメンバーのマーク・マザーズバーは現在映画音楽を手掛ける仕事が主な活動になっていて『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』も彼によるもののひとつ)などなどを網羅した全50曲のスペシャルアンソロジーだ。圧倒的に奇抜で特殊な知性を持ち合わせ、あくまで笑みがこぼれるほどポップなDEVOの音楽。ブックレットの写真を見てるだけでも楽しいのだが、いよいよその姿をライブで目撃できるのかと思うとワクワクして仕様がない。WE ARE DEVO!
NEXT WAVE / MONDO GROSSO
夏のパーティ・アルバム決定盤ということで、OL層にも勢い良く売れそうなモンド・グロッソの新作。エスニックな歯切れの良いギターカッティングがスイッチを入れた途端聞こえ出してしまっては、意外と早く飽きるとわかっていながら消費したいという願望が芽生えてしまっても仕方ないのかもしれません。既にラジオで散々耳にしたBoAを起用した曲「EVERYTHING NEEDS LOVE」がここでも一番映えますね。オマケのような「FIGHT FOR YOUR RIGHT」のカバーはいらない気もする。せっかくのUAもなんかの映画の主題歌みたいで正直いただけない。というか、これだけいろんなボーカル使って、半分くらいどっかで耳にしたことがあるってのは、ズルいよなぁ。まあでも、このタイミングでこの音楽をやるという選択とプレゼンができるのも大沢伸一の才能なのだろう。
ソイ天サント / タミオーバンド
タミオーといっても奥田民生とは全然別人の僕と結構つきあいの長い某兄弟のアニでありまして、このバンドはというと僕も一緒に参加している楽器の弾けないメンツでたまに集まっては適当に音を出して楽しくやっている程度のレベルのものです。それがまたどうしてCDを作ったかというと、僕らが知らない間にアニがひとりでひきこもって宅録で捻出していたみたいで、それをmajikickというインディレーベルをやっているアニの知人に聴かせたところ、絶句というか絶倒というか絶賛というか、とにかく気に入られたわけで、めでたくリリースとなったわけです。全10曲なのにトータル時間13分。生み出す側も聴く側も限界ギリギリの濃厚で力の抜けきった13分は一聴の体験価値アリ。かなり隅っこの世界だけど、ある意味凄いです。
THE ESSENTIAL / SLY & THE FAMILY STONE
自分が持ってないものに対する憧れという意味のカッコ良さ。このアフロな髪からモミアゲへと続く曲線が見事なジャケット写真からして秀逸だ。そんなスライ・ストーンの黒人のイメージが強いけど、実は黒人と白人、男性と女性が入り混じった人種混合男女混合バンドという非常に特徴的なスタイルで活動していたスライ&ザ・ファミリー・ストーンのリマスター2枚組ベスト。完全燃焼し尽くしたのか70年代半ばにしてシーンから姿を消したものの、残された音楽はかくも偉大な否定しようのない生身のダンス・ミュージックであり、今更ながら熱くなっても何ら不思議でない強力な魔力が宿っている。
CLIMAX / GREAT3
例えば映画の場合、演じる俳優たちよりも映画監督の名前で作品を選ぶということはよくあることかもしれない。しかし、音楽をシンガーやバンドよりプロデューサーの名前で選ぶというのはあまり感心しない。やはり、松浦亜弥あってのつんく♂であり、レッチリあってのリック・ルービンであり、レディオヘッドあってのナイジェル・ゴドリッチやジョン・レッキーであると思うのだ。というか、売り文句としてプロデューサーの名前を全面に出してるのが嫌いだし、レーベルだとか出身地だとか書き連ねているのもよくわからないから嫌いだ。GREAT3の新作はズバリ言って歌謡ポップスである。ソウルだったり、ディスコだったりファンキーな洋の要素を取り込んでも、あくまで和のメロディを貫いたわびさびポップスの世界。なんとなくアングラチックな香りもするのはGREAT3らしいところかもしれないが、YMOチックな気もするのはスカパラみたいに歌う人が歌えば大ヒットしたりして。それもちょっと哀しいけど、大好きな片寄明人の声が局地的にしか聴かれていないのはどうにも残念なわけで、まんまGSな雰囲気の「DAN DAN DAN ダン・ダン・ダン」でジュリーとでもデュエットしてればなぁ、なんてことも思ってしまう逸品。
SUMMER SUN / YO LA TENGO
映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のカバーアルバムに参加して、あの天然の奇声シンガー、オノ・ヨーコと共演するらしいが、映画のアートワークやアニメーションを手掛けたのがジョージアの姉(エミリー・ハブリー)だったようで、ちょっと「へぇ〜」とか思ってしまった。前作『THE SOUNDS OF THE SOUNDS OF SCIENCE』が海洋生物ドキュメントに音をつけた企画物のインストアルバムだったため彼らのレーベルのみの発売で広く流通することはなかったが、今回のアルバムもヴォーカルが入っているにせよ、非常にサウンドトラック的なトータルスコアの印象を受ける。ウェス・アンダーソン監督あたりが、このアルバムを元に青春映画でも作ってくれたら号泣だろうなぁ。
FOSSIL FUEL : THE XTC SINGLES 1977-92 / XTC
過少セールスという言葉があるとしたら、その意味において世界一のバンドかもしれない。絶大と言っても過言ではない評価を得ながら思うようなセールスがなかったがため、レーベルのヴァージンとは最悪な関係となり、その憎しみの果てに契約解消へと至ったのがデビュー20周年のときだったという、ポップとひねくれのふたつの才能を与えられたアンディ・パートリッジなら致し方ないこの皮肉。本作はヴァージン在籍時に発表されたシングルを集めた2枚組コンピレーションであり、いわゆるお互いの関係を成敗するがための企画物という意味合いも確かにあるのだが、やはりそれはそれとして珠玉のシングル集であり、初めてCD化される音源もあって初心者からマニアまでOKの強くオススメしたいアルバムである。僕自身XTCのアルバムいくつかに加え、元々あった1枚モノのシングル集も持っていたのだけど、去年これを買ってからたまにXTCを聴くときはこればかりになってしまった。せめていやいやでもライブ活動していればそれなりに売れてたと思うんだけどなぁ、と言ったところで頑固一徹、一生ライブはやらない=観れないと思われ(涙)。
7 WORLDS COLLIDE / NEIL FINN & FRIENDS
2001年4月に行なわれた元クラウデッド・ハウスのニール・フィンによる地元ニュージーランドでの凱旋ライブ。バックバンドにジョニー・マー、レディオヘッドのエド・オブライエン&フィル・セルウェイが全面参加しているのに加え、エディ・ヴェダーが数曲リード・ボーカルとしてその存在感たっぷりの声を披露している。脇役に徹しながらもジョニー・マーとエド・オブライエンというギタリストの競演は胸が高鳴るわけで、「ゼア・イズ・ア・ライト〜」がここで演奏されている事実に否が応にも反応せざるを得ない。どうにもこうにもジョニー・マーの繊細なプレイが聞けただけで幸せだったりするけれど、ニール・フィンの楽曲の良さに感銘を受けることなお多し。至福のエンディングは大名曲「DON’T DREAM IT’S OVER」。合唱して歌っているみんなはきっといい表情しているんだろうなぁ。
LIVE IN NEW YORK CITY / BRUCE SPRINGSTEEN & THE E STREET BAND
アメリカを象徴するロックンロール・ヒーローは何と言ってもブルース・スプリングスティーンである。古く昔から第一線で活躍し続け、常にアメリカを背負ってロックに託してきたブルース・スプリングスティーン。デーモン・ゴッホ=バッドリー・ドローン・ボーイが彼のブート盤をコレクションしていたり、アダム・サンドラーが本気のモノマネでレコードを出していたりするなど、時代にとらわれなく聞き手をとにかく魅了してやまない。そして、エルビス・コステロにアトラクションズ、ニール・ヤングにクレイジーホースがいるように、ブルース・スプリングスティーンにはEストリートバンドという70年代に『明日なき暴走』『闇に吠える街』といった傑作群を生み出した盟バンドがいたわけで、ここで紹介するライブ盤はそのEストリートバンドと12年振りに組んだツアー音源が収録されている。「永遠の人生を約束することはできないが、今、ここの瞬間の人生を約束することはできる」という彼の言葉。僕は全てを信じて観に行きたくて仕方がない。