

レッド・ツェッペリン 狂熱のライブ
THE SONG REMAINS THE SAME
監督:ピーター・クリフトン、ジョー・マソット
1976年 アメリカ
もしもDVDプレイヤーがあったなら、先日リリースされたレッド・ツェッペリンの35周年記念2枚組DVDを買っていただろう。だけど僕にはDVDプレイヤーがない! いい加減DVDが観れるようにしたいなぁと思いつつ、今回はだいぶ前に観た映画ですが、それが出るまでツェッペリンの公式に発表した唯一の映像作品だったライブドキュメント映画を紹介。1973年のニューヨーク、マジソン・スクエア・ガーデンでの公演を収録したもので、合間には彼らのマネージャーだったピーター・グラントが楽屋でキレまくるシーンといったライブの裏側の部分から、ロバート・プラントが中世の騎士になってたりと妙チクリンなイメージ映像が挿入されている。ほとんど何もないステージでの4人の演奏はただただ圧倒的で本心から憧れられるロックの魅力が思いっきり満ち溢れている。マジメな話、ジョン・スクワイアがジミー・ペイジくらいしっかりバンドをまとめてくれてれば、ストーン・ローゼズも今頃は予想もつかないレベルの怪物になってただろうなぁ、という気もするわけで、90年代の後半はローゼズの喪失というボンゾの死=ツェッペリン解散と同等のつらい歴史を僕らは経験したんだとつくづく思う。なお今作のサウンドトラックのライナーノーツには、いまや映画監督として成功したキャメロン・クロウが一筆寄せている。


マイノリティ・リポート
MINORITY REPORT
監督:スティーブン・スピルバーグ
2002年 アメリカ
トム・クルーズの父親役というのはいつもながらしっくりハマらなかったものの、決してつまらない映画ではなかったです。幾分、尺が長いのはスピルバーグだけの特権なのか? 人間対機械というSFの構図をまっとうに映画化したら、こうもクラシカルなものに仕上がってしまうという面白さがあった。


ノー・マンズ・ランド
NO MAN’S LAND
監督:ダニス・タノヴィッチ
2001年 フランス・イタリア・ベルギー・イギリス・スロベニア
ボスニアとセルビア間の紛争における前線の中間地帯でめぐり会った両軍兵士。美しすぎる自然を背景に一色即発と相互理解のギリギリの境界線上で揺れ動くお互いの葛藤は日常の口ゲンカと何ら変わらないもので興味深く見たり笑ったり、けれども戦争状態という意味の無さがちゃんちゃら可笑しく思えてしまう。責任回避で結局は何もできない国連。当事者達をさらし続けて自己満足の競争に執念を燃やすメディア。皮肉な現実だとわかっていながらも、こうなってしまうというリアルな無力感を抱かせる。


アメリカン・パイ
AMERICAN PIE
監督:ポール・ウェイツ
1999年 アメリカ
陰気な高校生活の現実逃避として、アメリカの青春モノには特に刺激を受けていたように思える。『旅立ちのとき』を観てはリバー・フェニックスに涙し、『恋しくて』を観てはリー・トンプソンにときめき、自分とほぼ変わらぬ年齢設定で進行していた「ビバリーヒルズ高校白書」には強い憧れを持っていた。クルマで高校に通うって凄いことだと思ったし、基本的なクライマックスとして間違いなくやってくる卒業パーティ(プロム)の存在は他国民ながら物凄く気になっていたものだ。『アメリカン・パイ』はそんなアメリカで青春を謳歌するエロい好奇心に満ち満ちた高校生達を描いた傑作コメディ。アダム・サンドラー似の主人公と親父のやりとりが最高なんだが、アップルパイでやってるところ見られたら一生立ち直れないよなぁ。インターネット生放送で全校生徒にモロ見られの中、大失態やっちゃったりして、大笑いして観ながらも、コイツ強いなぁ、なんて感心してしまった。いろんなキャラがいながら最後はそれぞれうまく成立させたところがよかったなぁ〜と、憧れ再びということで続きはまた今度観てみたいと思います。


戦場のピアニスト
THE PIANIST
監督:ロマン・ポランスキー
2002年 ポーランド・フランス
ポランスキー自身が体験したことでもある彼のホロコースト映画というだけで、物凄い説得力がある。ポーランド人映画監督としての宿命めいた入魂の度合いが凄まじくて、それに応えるかのように真剣にスクリーンを凝視してしまう。体を張って演じたエイドリアン・ブロディが物語る緊張と恐怖。ナチスドイツ軍が侵攻したときワルシャワにいた36万人のユダヤ人が終戦時にはたった20人しかいなかった史実には戦慄をおぼえるとともに驚愕するしかないのだが、そういう部分の残酷なシーンが遂行されていくとともに、人種間における敵味方の関係、強者弱者の関係だけでなく、ドイツ人将校が主人公を生かせてあげたり、逆にユダヤ人がナチの下の警察として力を奮ったりする人種的な立場を超越した関係があったことを伝えたことは大きい。


過去のない男
MIES VAILLA MENNEISYYTTÄ
監督:アキ・カウリスマキ
2002年 フィンランド
カンヌがグランプリという太鼓判を押してくれたことで、ここ日本でもカウリスマキの映画が大ヒットしてくれればと思う。モノクロ・サイレントという究極の手法で最高のものを見せつけてくれた前作『白い花びら』から一転、カラーとなった今作は『浮き雲』に近いテイストで描かれたまさにカウリスマキな作品だった。暴漢に頭を殴られ過去の記憶を失った男が人生を再出発させるストーリーによって、非常にシビアなフィンランドの経済状況を映し出してはいるものの、登場人物たちがユニークで、誰一人として悲しみに暮れた泣きの芝居をしていないところが凄くいい。悲観的になりすぎず、人生は前にしか進まないということを肝に命じて、生きていこうじゃないか。いろいろあるけど、世の中捨てたものじゃあないはずだ。


歓楽通り
RUE DES PLAISIRS
監督:パトリス・ルコント
2002年 フランス
父親も知れず、娼館で生まれ、娼館で育ち、娼館で働く中年男の物語。主人公が心から愛したひとりの娼婦に対して、自分は彼女の相手としてはふさわしくないと確信しているが故に彼女の世話をすることに終始し、彼女が恋に落ちる運命の男を探し出そうと頑張ったり、結果その男に自分は納得しなくとも、体を張って彼女の幸せのため、夢を壊さないためにひたすら尽くすという、ルコントらしいと言えばらしいのだが、ストイックなのにも程があると思わざるを得ない。『愛しのエレーヌ』や『夢見るシングルズ』のような映画はもう撮らないのかなぁ。ミシェル・ブランとのコンビをそろそろ復活して欲しいルコントであります。


スパイキッズ
SPY KIDS
監督:ロバート・ロドリゲス
2001年 アメリカ
先日ビデオで『ハリー・ポッターと賢者の石』を観た。魔法使いがスパイに置き換わると『スパイキッズ』だなと思った。そんな『スパイキッズ』は誰も期待していないと思うけど、意外なほど楽しる映画だったりする。僕自身も100%眼中になかったけど、ハッ!と気付いたロバート・ロドリゲスの名前。こんなところで仕事してたとは、うっかり見落とすところでした。『デスペラード』や『フロム・ダスク・ティル・ドーン』で名を馳せた曲者監督だけに、内容もアッケラカンとB級オチャラケムード満載! ジョージ・クルーニーもゲスト出演しています。続編ではスティーブ・ブシェミが悪役のようで、こちらも観たいぞ!


24アワー・パーティ・ピープル
24HOUR PARTY PEOPLE
監督:マイケル・ウィンターボトム
2002年 イギリス
イングランド北部の工業都市、マンチェスター。一度だけ訪れたことのあるその街には大きなショッピング・センターが一つあるくらいで、世界屈指のサッカークラブがあり、最高のバンドを次々と輩出してきた文化面の華やかさと比べたら、とても閑散としているように見えた。どこにそんなエネルギーがあるものか不思議なものだけど、この映画で描かれたような成り行きがあるから素敵だ。フィルムに刻まれた宝石のような音楽に身を委ねての、ファクトリーの社会見学は、僕には最高に刺激的な体験だった。


ボーリング・フォー・コロンバイン
BOWLING FOR COLUMBINE
監督:マイケル・ムーア
2002年 カナダ
イラク問題などでアメリカ政府の動向に注目が集まっているタイムリーなタイミングで心の中にあるアメリカへのモヤモヤした感じを多少なりともスッキリさせたいのか、異例の大ヒットとなっているアメリカ銃社会をテーマにしたドキュメント映画。何も天才的なひらめきや表現があるわけではなく、ただ普通に思っている疑問を投げかける視点の鋭さとユニークさ、またカメラを連れて突撃取材を敢行する行動力によって、ドキュメントであるけどもマイケル・ムーアの作品としての個性が強く印象に残る。そして、それが物凄くおもしろい。アメリカ白人の脅え、カナダとの比較、マリリン・マンソンの明晰な会話、恐怖と消費のアメリカ社会、全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストンなどなどといったジャーナリスティックな知的好奇心を満たす刺激的な内容が満載だ。
