Dolls
監督:北野武
2002年 日本
いわゆる世間一般のたけし映画に対する認知度、関心度は低いままだろう。話題となっても実際映画を観ている人は非常に限られているのではないだろうか。また、かつて『3-4×10月』や『ソナチネ』で熱を上げたファンも最近はいささか冷静になっているのかもしれない。しかし、ついに10作目となる『Dolls』はそんなヌルい空気に流されて見逃しては、自分は後悔していただろう。この重々しく切ない四季の彩りを静かに見つめながら、深く苦しい感動を味わう。山本耀司の衣装、人形浄瑠璃の舞台、抜群の映像美もさることながら、今作での菅野美穂の演技は特筆に価するものだった。
エブリバディ・フェイマス!
監督:ドミニク・デリュデレ
IEDEREEN BEROEMD!
2000年 ベルギー、フランス、オランダ
歌手になって大スターになることを憧れる冴えない娘と、その夢を叶えようと娘の才能を本気で信じて奮闘する冴えない父親のシケた物語のように最初は思えるだろう。しかし、父親の勤めていた工場が不況で閉鎖になったあたりから、おもしろい方向へその親父が大暴走! ヤケクソな立場だといえ、偶然出会ったとてもきれいな大スターの女性歌手を誘拐してしまうのだ。ここまでやれたらステージパパとして立派と認めるしかないだろう。娘が歌う「ラッキー・マヌエロ」という曲があるのだけど、これが親父が作った自我自賛なものだけになかなか良くはないのだが、観終わっても妙に耳に残るんだな。ものまねのど自慢大会のマイケル・ジャクソンが絶妙に決めてたのがナイス。
8 Mile
監督:カーティス・ハンソン
8 MILE
2003年 アメリカ
言わずと知れたエミネムの主演映画。前々作『L.A. コンフィデンシャル』で一気に評価を高めたカーティス・ハンソンとエミネムの接点は謎だが、この映画も思いのほか良かったりします。底辺層から這い上がろうとする若者の青春ストーリーとしてしっかりしたものがあり、何と言ってもスクリーンで見る役者エミネムの姿、表情が素晴らしくいい。そしてラップバトルという名の口ゲンカ合戦で見せる本職としての技。英語がわかればここはもっと面白いんだろうなぁ。5月のエミネムショー来日公演に行かなかったことを激しく後悔しております。
レッド・ツェッペリン 狂熱のライブ
監督:ピーター・クリフトン、ジョー・マソット
THE SONG REMAINS THE SAME
1976年 アメリカ
もしもDVDプレイヤーがあったなら、先日リリースされたレッド・ツェッペリンの35周年記念2枚組DVDを買っていただろう。だけど僕にはDVDプレイヤーがない! いい加減DVDが観れるようにしたいなぁと思いつつ、今回はだいぶ前に観た映画ですが、それが出るまでツェッペリンの公式に発表した唯一の映像作品だったライブドキュメント映画を紹介。1973年のニューヨーク、マジソン・スクエア・ガーデンでの公演を収録したもので、合間には彼らのマネージャーだったピーター・グラントが楽屋でキレまくるシーンといったライブの裏側の部分から、ロバート・プラントが中世の騎士になってたりと妙チクリンなイメージ映像が挿入されている。ほとんど何もないステージでの4人の演奏はただただ圧倒的で本心から憧れられるロックの魅力が思いっきり満ち溢れている。マジメな話、ジョン・スクワイアがジミー・ペイジくらいしっかりバンドをまとめてくれてれば、ストーン・ローゼズも今頃は予想もつかないレベルの怪物になってただろうなぁ、という気もするわけで、90年代の後半はローゼズの喪失というボンゾの死=ツェッペリン解散と同等のつらい歴史を僕らは経験したんだとつくづく思う。なお今作のサウンドトラックのライナーノーツには、いまや映画監督として成功したキャメロン・クロウが一筆寄せている。
マイノリティ・リポート
監督:スティーブン・スピルバーグ
MINORITY REPORT
2002年 アメリカ
トム・クルーズの父親役というのはいつもながらしっくりハマらなかったものの、決してつまらない映画ではなかったです。幾分、尺が長いのはスピルバーグだけの特権なのか? 人間対機械というSFの構図をまっとうに映画化したら、こうもクラシカルなものに仕上がってしまうという面白さがあった。
ノー・マンズ・ランド
監督:ダニス・タノヴィッチ
NO MAN’S LAND
2001年 フランス・イタリア・ベルギー・イギリス・スロベニア
ボスニアとセルビア間の紛争における前線の中間地帯でめぐり会った両軍兵士。美しすぎる自然を背景に一色即発と相互理解のギリギリの境界線上で揺れ動くお互いの葛藤は日常の口ゲンカと何ら変わらないもので興味深く見たり笑ったり、けれども戦争状態という意味の無さがちゃんちゃら可笑しく思えてしまう。責任回避で結局は何もできない国連。当事者達をさらし続けて自己満足の競争に執念を燃やすメディア。皮肉な現実だとわかっていながらも、こうなってしまうというリアルな無力感を抱かせる。
アメリカン・パイ
監督:ポール・ウェイツ
AMERICAN PIE
1999年 アメリカ
陰気な高校生活の現実逃避として、アメリカの青春モノには特に刺激を受けていたように思える。『旅立ちのとき』を観てはリバー・フェニックスに涙し、『恋しくて』を観てはリー・トンプソンにときめき、自分とほぼ変わらぬ年齢設定で進行していた「ビバリーヒルズ高校白書」には強い憧れを持っていた。クルマで高校に通うって凄いことだと思ったし、基本的なクライマックスとして間違いなくやってくる卒業パーティ(プロム)の存在は他国民ながら物凄く気になっていたものだ。『アメリカン・パイ』はそんなアメリカで青春を謳歌するエロい好奇心に満ち満ちた高校生達を描いた傑作コメディ。アダム・サンドラー似の主人公と親父のやりとりが最高なんだが、アップルパイでやってるところ見られたら一生立ち直れないよなぁ。インターネット生放送で全校生徒にモロ見られの中、大失態やっちゃったりして、大笑いして観ながらも、コイツ強いなぁ、なんて感心してしまった。いろんなキャラがいながら最後はそれぞれうまく成立させたところがよかったなぁ〜と、憧れ再びということで続きはまた今度観てみたいと思います。
戦場のピアニスト
監督:ロマン・ポランスキー
THE PIANIST
2002年 ポーランド・フランス
ポランスキー自身が体験したことでもある彼のホロコースト映画というだけで、物凄い説得力がある。ポーランド人映画監督としての宿命めいた入魂の度合いが凄まじくて、それに応えるかのように真剣にスクリーンを凝視してしまう。体を張って演じたエイドリアン・ブロディが物語る緊張と恐怖。ナチスドイツ軍が侵攻したときワルシャワにいた36万人のユダヤ人が終戦時にはたった20人しかいなかった史実には戦慄をおぼえるとともに驚愕するしかないのだが、そういう部分の残酷なシーンが遂行されていくとともに、人種間における敵味方の関係、強者弱者の関係だけでなく、ドイツ人将校が主人公を生かせてあげたり、逆にユダヤ人がナチの下の警察として力を奮ったりする人種的な立場を超越した関係があったことを伝えたことは大きい。
過去のない男
監督:アキ・カウリスマキ
MIES VAILLA MENNEISYYTTÄ
2002年 フィンランド
カンヌがグランプリという太鼓判を押してくれたことで、ここ日本でもカウリスマキの映画が大ヒットしてくれればと思う。モノクロ・サイレントという究極の手法で最高のものを見せつけてくれた前作『白い花びら』から一転、カラーとなった今作は『浮き雲』に近いテイストで描かれたまさにカウリスマキな作品だった。暴漢に頭を殴られ過去の記憶を失った男が人生を再出発させるストーリーによって、非常にシビアなフィンランドの経済状況を映し出してはいるものの、登場人物たちがユニークで、誰一人として悲しみに暮れた泣きの芝居をしていないところが凄くいい。悲観的になりすぎず、人生は前にしか進まないということを肝に命じて、生きていこうじゃないか。いろいろあるけど、世の中捨てたものじゃあないはずだ。
歓楽通り
監督:パトリス・ルコント
RUE DES PLAISIRS
2002年 フランス
父親も知れず、娼館で生まれ、娼館で育ち、娼館で働く中年男の物語。主人公が心から愛したひとりの娼婦に対して、自分は彼女の相手としてはふさわしくないと確信しているが故に彼女の世話をすることに終始し、彼女が恋に落ちる運命の男を探し出そうと頑張ったり、結果その男に自分は納得しなくとも、体を張って彼女の幸せのため、夢を壊さないためにひたすら尽くすという、ルコントらしいと言えばらしいのだが、ストイックなのにも程があると思わざるを得ない。『愛しのエレーヌ』や『夢見るシングルズ』のような映画はもう撮らないのかなぁ。ミシェル・ブランとのコンビをそろそろ復活して欲しいルコントであります。