トラフィック
監督:スティーブン・ソダーバーグ
TRAFFIC
2000年 アメリカ
麻薬戦争をドキュメントタッチで様々な地点で起こりうる経過を巧みにシンクロさせながら描いた、ソダーバーグらしい一本。本当にこの監督は巧いなぁと思う。個人的には『アウト・オブ・サイト』がいちばん好きだけど、この作品も全然飽きないです。深夜に見てても眠くならなかったし。それにしても麻薬対策を指揮する最高責任者の娘がヤク中って、すごい皮肉だよな。カタギにしても悪にしても、でかい役職の仕事なんてやるもんじゃないね。僕は目立たない自由で幸せな生活を望みたいです。
殺し屋1
監督:三池崇史
2001年 日本
正月早々、イヤーなもの見ちゃったなぁ。派手なスプラッターはそれはそれでめでたいように思いたいけど、ここまで生々しく痛々しいのは辛くて気持ち悪かった。殴る・蹴る・撃つの暴力より、切る・刺す・ちぎるのオンパレード。ひえー、もうやめてー! とにかく悪趣味なショッキング映像をここまで見せられては拒絶反応を示さざるを得ない。そこが三池崇史の狙いだったのか。映画の暴力シーンに麻痺している現代人に本気で目をそむけさせるほどリアルな感情としての痛みを感じさせることへの挑戦。それかただ単に登場人物の死亡率、出血量を日本映画史上最高にしたかっただけなのか。ピーター・ジャクソンの『ブレイン・デッド』はOKだけど、これは苦手です。もう二度と観たくないと思った。
カラテ大戦争
監督:南部英夫
1978年 日本
ザッツ昭和エンターテインメント! これは凄い。かなりきてます。梶原一騎と大山倍達の原作の映画化作品なのだが、これを観るとどうして香港のカンフー映画のように日本にカラテ映画が根付かなかったのか不思議だ。ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなスターが生まれなかったのが原因か。確かに主演の真樹日佐夫(梶原一騎の実弟)は石原裕次郎チックでちょっとおっちゃんだけど、えいやー!エイヤー!と敵を蹴り飛ばすサマは爽快。いまだからこそあまりに斬新に見えすぎるのかも知れないけど、これはサイコーです。極限流カラテ(いわゆる極真カラテ)の師匠役には大滝秀治が! 存在感ありますな。
気狂いピエロ
監督:ジャン・リュック・ゴダール
PIERRO LE FOU
1965年 フランス
作品を重ねるごとに映画表現の解体が進むゴダール。近年の作品は編集と音のコラージュ的なるもので観てもさっぱり分からず、ストーリーを追うことを放棄しがちだが、いわゆるそうした彼の映画へのアナーキズムの原点といえるのが、この作品といえるのではないか。若々しい名優ジャン・ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナ、元恋人との逃避行、鮮やかなトリコロール・カラー、気狂いピエロの詩、映画監督サミュエル・フラー、殺し、裏切り、愛と破滅。当時のゴダールの全てが刻まれた、彼の作品の中でも、これは必見の名画です。
少林寺木人拳
監督:チェン・チーホワ
少林木人巷 / SHAOLIN WOODEN MEN
1977年 香港
ジャッキー・チェン初期カンフー作品の最高傑作との友人の評価は見事に当たっていた。これは観る人が観たら体中電流走りまくりの衝撃の一本だ。父の仇を討つため少林寺で修行を積む失語症の青年ジャッキー。一人前として少林寺を卒業する最後の関門が、木人の攻撃をかわし、何十体もの木人が並ぶ木人道を通り抜ける、木人拳の習得である。この手足が機械仕掛けでギコギコ動く木人とジャッキーの手に汗握る攻防シーンがとんでもなかった! 木人があんなに動くなんて(しかもまとめて!)、まさに奇々怪々。その未だかつて見たことのなかったびっくり映像に仰天爆笑! その後も仇を討つまで物語は続き、安い演出が随所に散りばめられ、最後の決闘シーンで筋肉パワーを出す瞬間も見逃せないぞ。ジャッキーは超人なり。アーミーダーボー。
ハンニバル
監督:リドリー・スコット
HANNIBAL
2000年 アメリカ
映画として、可もなく不可もなくといったところに落ち着いたのは仕方ないといえば仕方がないのかもしれない。今作はレクター博士にスポットを当てた物語で、彼の美的でインテリな感じを映画全体から終始感じさせる作りとなっており、演じるアンソニー・ホプキンスの見事さは本当に文句のつけようがない。ただ相対するクラリスと今回の敵役(あれがゲーリー・オールドマンだったのね)が、レクターとの力関係において圧倒的に差がありすぎたため、その分ドラマで見せようと頑張ってはいるけれど、なんとなく時間切れで終了といった感じで終わってしまって、ちょっと勿体無かったように思える。脳味噌よりも高レベルな頭脳のスリリングな駆け引きがもっと見たかったな。
グリーン・デスティニー
監督:アン・リー
臥虎蔵龍 / CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON
2000年 中国・アメリカ
真正面ハゲのチョウ・ユンファが渋い! 芸術的品位あふれるワイアー・アクション史劇で、しっとりしたラブストーリーに仕上げた、アン・リーの巧みな技が冴え渡る一本。静と動のリズム・呼吸が見事で思わず画面に引き込まれてしまいます。『マトリックス』以降、大流行のワイヤー・アクションに対し、あまりに優雅な美的センスを見せつけた本家の底力。竹林の決闘シーンは映像の歴史教科書に刻まれるべき傑作シーンだったと思う。
ひかりのまち
監督:マイケル・ウィンターボトム
WONDERLAND
1999年 イギリス
人と人が出会いスレ違う、どこにでもある現代の生活模様。恋人同士や他人同士、夫婦や親子の人間関係。みんなギリギリのところで生きていて、ギリギリのところでつながっている。そんな登場人物たちに共感してしまうのは僕だけではないだろう。生まれてくる次の世代はもっと大変なんだろうなとふと思った。
回路
監督:黒沢清
2001年 日本
かなり根暗な映画だなと思った。黒沢清の色は映像にあらわれていたと思うけど、もうひとつ物足りなさを感じてしまう。インターネットの表現があまりにリアリティを欠いていて、そこから幽霊を結び付けていくのがちょっと辛かった。オカルトホラーとしても、都市生活への問題提起としても、内容が弱かったように思える。最初と最後の役所広司もこじつけっぽいし。黒沢作品の本格的なホラーをえなりかずき主演で撮ったら物凄くハマると思うのだけど、一度やってくれないかな。
バトル・ロワイアル
監督:深作欣二
2000年 日本
目が覚めるような映画だった。暴力描写が問題となり、国会でも話題になるほどだったが、文部省選定作品にならずとも映画は見事に大ヒットした。不謹慎かもしれないが、中学生がクラスメイトを殺しあうのは、とてもおもしろかった。矛先をルールを作った大人に向けても、かなわないと思い知るやその矛先は瞬間的に仲間たちに向けられる人間の性。愛や友情も次々と裏切られていくのは極限の精神状態だからであろうか。映画は確かに極限の状況だが、実際の社会でも自殺や殺人に追い込む危険な要素はいくつもあって、そうした事件は多発しているからこそ、積極的に見せるべきだったように思える。中には「いま、そこにある危機」を想定した肉体修行を積む寺門ジモンのような人間も5人くらい増えちゃうかもしれないけど、これは人を信じるなと言っているのではない。人を信じられない世の中にするなと言っているのだ。ラストの「走れ。」というメッセージに目の覚めるような感動を覚える傑作だと思う。